AIを用いたBGM選曲システムの実証実験
朝には爽やかな曲が流れ、活気がわいてくる昼にかけてアップテンポの曲、そして夜はしっとりした曲が、年代やジャンルの枠にとらわれず一連の音楽として流れてくる。
AIがとらえるその場に居合わせた人たちのストーリーを反映させたようなBGM。
人間では思いつかない選曲や並べ方によって、新しい音楽との出会いが生まれる。
「AI BGM」は、USEN-NEXT GROUPの株式会社USENが配信する楽曲から季節・天気・時間帯などの変化に合わせてAIが曲をセレクトし、店舗空間に合わせたカスタムメイドのBGM選曲を目指すプロジェクトです。Qosmoは選曲AIの開発を担当します。
第一フェーズとして、森ビル株式会社と共同し、2019年7月1日より約1年間、虎ノ門ヒルズにある「THE CORE KITCHEN/SPACE」にて実証実験を行います。
Qosmoでは自主プロジェクトのひとつに、DJを通して表現におけるAIと人間の関係性を考察することを目的とした「AI DJ Project — A dialogue between AI and a human」を手がけています。2019年にはアメリカ・カリフォルニア州マウンテンビューで開催されたGoogle I/O 2019にてCEOサンダー・ピチャイの基調講演前のオープニングパフォーマンスを行い、国内外問わず活動を続けています。
このAI DJ Projectの選曲技術を応用し、パフォーマンスとしての実績だけでなく、商用向けサービスへの展開として「AI BGM」をスタートさせました。
今回の検証では、まず準備として、学習済みのAIが「THE CORE KITCHEN/SPACE」のために用意されたBGM約150曲の特徴を解析して、約3,500曲の類似曲をセレクトしました。店舗がオープンし運用が開始されると、季節・時間帯・天気などの状況に応じて、その瞬間にマッチした曲を都度決定していきます。
USENが提供する楽曲には、1曲ごとに「アクティブ」や「リラックス」といったイメージワードが手作業でつけられています。Qosmoが開発したAIは、これらの楽曲タグ情報がつけられた約50万曲を学習し、楽曲の特徴を識別するモデルです。イメージワードの他にも、時間帯の「朝らしさ・夜らしさ」、季節の「夏らしさ・冬らしさ」や天候の「晴れっぽい・雨っぽい」といった楽曲の雰囲気をあらわす情報をスコア化することで、AIが1曲に対する特徴を幅広くとらえられるようにしています。これにより新たな曲に対して、自動でイメージワードをつけることが可能となります。
例えば上記の図にあるsongAはタグ情報から、”雪降る冬の曲”であることがわかり、センチメンタルでメロウなイメージワードが付与されています。songBは”爽やかな夏の夜の曲”、songCは”春の出会いと別れを感じる曲”のようなイメージができます。
実際にどのように一日の選曲を行っているかというと、リアルタイムに取得された天候などの情報と前後の選曲を考慮に入れた上で、高次元空間に分布された楽曲群の中をゆっくり移動していくようなイメージです。これにより自然な選曲の実現を目指しました。
興味深いことに、AIによる特徴づけは、「軽やかで、センチメンタルでもある」というような、人間ではなかなか定量化しづらい“中間”の領域まで表現することができます。単なる楽曲のジャンルではなく、楽器の構成やグルーヴ(リズムのノリ)など音そのものの情報の類似によって、人間だけの選曲では得られなかったダイナミックで意外性に富んだセレクションを提供します。
「AI BGM」が、店舗に居合わせた人に向けてジャンルや年代を飛び越えながら一連の流れをもって音楽を届けることで、人と音楽との新たな出会いを創造することを期待しています。
Nao Tokui (Qosmo, Inc.)
ISHII 2bit
Hiroshi Yamato (Signal Compose, Inc.), Yumi Takahashi (Qosmo, Inc.), Wataru Abe (Tape ,Inc.)